「コーヒーが飲みたい」
私は突然、そう言った。さすがに山崎も生徒もびっくりした。しかし、私は苛立ちもそこそこだったし、この奇妙な状況をなんとかしたかったし、喫茶店に入ることを提案した。すると腹立つことに
「奇遇、僕もだ」
山崎が微笑んだ。その微笑みにさらなる苛立ちを感じなからも、3人は喫茶店に入った。23時も回ろうとする時間にやっていた喫茶店のコーヒーの味は想像以上に美味しいとは言えず、どうしたものかと私は頭を抱えた。
「実は、ありがたいとは思うんだけどこうした懇親会は本当に苦手でね」
山崎が初めて私に申し訳なさそうに話をし始めた。
「慣れてはいるんだけど、こうした地方での仕事では懇親会は遠慮して翌日観光とかしたいって思うんだよ。なかなか周囲は許してくれないし、人と知り合っておくのは僕の仕事上プラスではあると思うんだ。
でも、それは東京や大阪でもやっていることだから、さすがに半分ボランティアである今回講義の懇親会は気が重くてね。それに、あまり僕自身、いい講義ができたとも思っていないんだ。」
生徒がまどろみ始めた頃だった。
「それより、キミの話も聞きたいって思ったんだよ。実際に僕、食事が食べられなくなった時のことなんて考えたことなかったしさ。自分が死に近づいたらなんてそうそう考えないだろ。」
黙って聞いていた。山崎の日常と私の日常が違うのだから、それも当たり前のことだと言い返そうかと思ったが、やはり、自分の話に興味を持ってもらったのは嬉しいと思ったからだ。
「なかなか出会えないタイプの仕事をし考えを持っていそうな人間と会話をしたいと思うのは、お互いにとってプラスだろ?」
山崎はどう考えてもまずいだろうコーヒーを美味しそうに飲み干して最後にこう言った。
「彼の立場もあるし、僕と一緒に二次会参加しようよ」
その頃には私に対しる彼の話し方はただの友達のそれと大差ないものになっていた。